辞書を引いて英訳した単語が、海外では異なって解釈されていることがよくあります。当シリーズでは英語、日本語両方を熟知し、多数の英語書籍を出版しているデイビッド・セインさんが言葉の意味や用法、また文化背景について解説します。
第8回は男性に関する表現「男気」です。 |
日本人は性差別表現に寛容?
日本に来て驚いたことのひとつに、性差別表現に対する寛容さがあります。
アメリカでは社会全体として、人種はもちろんのこと、性による差別表現は徹底的になくそうという方向へ進んでいます(現大統領については、ここでは触れないことにしましょう)。「男らしい」「女らしい」という言葉は存在するものの、オフィシャルな場で使えばすぐ糾弾されます。しかし日本では「男らしい」「女らしい」という表現を日常的に使い、特にそれを咎める風潮は見られません。では、これらの言葉を英語で表現する場合、どのように言えばいいでしょうか?
「男気」は英語圏にもある?
今回はまず、男性向けの表現「男気」を紹介しましょう(女性向けの表現は次回ご紹介します)。
最近、私が気になる言葉に「男気」があります。男らしい性格や振る舞いを言い、犠牲を払ってでも人につくそうとする、頼りになる態度のことです。「女気」という言葉も存在しているようですが、使われているのを見たことはありません。
この「男気」を英語で表すと、そう日常的に使う言葉ではありませんが、chivalryが近いでしょう。chivalryは一般的な辞書では「(中世の)騎士道、(忠君、勇気、礼儀、仁愛などをモットーとする)騎士道精神」と紹介されているので、「男気の西洋版」といえます。シンプルに「勇敢」という言葉を使うなら、valor「(戦場の)勇気、勇敢さ」がいいでしょう。
では「彼は男気ある人だ」を英訳するとどうなるでしょうか? 私なら次のように訳します。
A. 彼は男気ある人だ。
1. He is a man of chivalry.
2. He has true valor.
man of chivalryと表現しても「?」の人がいるはずです。その場合、少し説明的に次のように意訳するといいでしょう。
3. He shows true valor under pressure.
では、「男気」と似た言葉「義侠心」を英語にするとどうなるでしょうか。
「義侠心」は正義を重んじ、弱きを助け強きをくじく心をいいます。任侠ものでよく耳にする言葉ですね。
B. 彼は義侠心から行動を起こした。
1. He acted out of a sense of chivalry.
2. He showed his valor.
これまた意訳して、「内面の強さを見せた」というニュアンスを出すと次のようになります。
3. He showed what he was made of.
A、Bいずれの文章でも、文化的な背景がわからないと1、2の訳では今ひとつピンときません。3のように多少噛み砕いて表現すると、本来言いたいことがうまく伝えられるはずです。
難しい言葉をいかに伝わる言葉に変えるかが、翻訳の妙味です。
次のページでは女性に関する表現を説明しています。
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次のページでは、さまざまな「男らしい」「女らしい」に関する表現をまとめています。
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