辞書を引いて英訳した単語が、海外では異なって解釈されていることがよくあります。当シリーズでは英語、日本語両方を熟知し、多数の英語書籍を出版しているデイビッド・セインさんが言葉の意味や用法、また文化背景について解説します。
第4回は「年功序列」です。 |
夢のシステム「年功序列」
「忖度」「天下り」と、いかにも日本らしい言葉を英訳してきました。そこで今回は、私が日本企業で働いて初めて知った言葉「年功序列」を英訳してみましょう。
そもそもアメリカ社会で、年齢の上下関係はさほど重要ではありません。そのため「年功序列」という言葉は初耳でしたし、「在籍年数を基準として評価する企業システム」自体に、新鮮さすら覚えました。
個人の能力や実績に関係なく、在籍していればいるだけ昇給していくなんて! 実力主義のアメリカ人からすれば、夢のシステムです。こんなシステムを導入したら、アメリカ社会もまったく違ったものになるでしょう(それがいいかどうかは別の話ですが…)。
senior / juniorは使わない?!
アメリカでは先輩・後輩といった上下関係があまり重要でないため、実はseniorやjuniorという語はあまり使いません。使うとしたらseniorityで、次のような表現はよく耳にします。
He has seniority on me.
これで「彼は私より先輩だ」、つまり「彼のほうが勤続年数が長い」というニュアンスになります。
「年功序列」はpromotion by seniorityやpromotion of seniority、seniority-wage systemなどと表現できます。ただし日本独特のシステムですから、このシステム自体を説明するならば次のように言うといいでしょう。
Seniority refers to the age of a person, and wage refers to money, so under this system the amount of money you receive is based on how old you are.
(seniorityという語は年齢を、wageはお金を指すことからもわかるように、このシステムで受け取る金額は年齢に基づきます)
差別にうるさいアメリカで年功序列を導入したら、「年齢による差別」だと厳しく罰せられるはずです。
さよなら年功序列…
そもそも年功序列は、会社内の才能を抑える負のシステムだと私は思います。
熟練の従業員は、経験はあるものの新しいものに適応する能力は低いでしょう。一方、若い従業員は未熟ではあるものの、その分、柔軟で伸び代があります。seniority-wage pay system(年功序列に基づく給与制度)は、年をとればとるほど(自動的に)お給料が上がるシステムですから、これでが従業員のやる気は引き出せません。
長年、日本のグローバル化の障害は英語だと言われてきましたが、本当の障害は年功序列をよしとする日本独特の文化かもしれません。