辞書を引いて英訳した単語が、海外では異なって解釈されていることがよくあります。当シリーズでは英語、日本語両方を熟知し、多数の英語書籍を出版しているデイビッド・セインさんが言葉の意味や用法、また文化背景について解説します。
第20回 は年末特別企画「今年の流行語を英語にしよう!」の第1回です。今年話題となった「半端ない」「スーパーボランティア」の英訳にチャレンジします。 |
いよいよ年の瀬が近づいてきました。この時期に私が楽しみにしているのが「今年の流行語」。
かつては新聞やニュースで話題になったキーワードが取り上げられましたが、最近はネット・スラングも多く、「今年の流行語」と発表されてから知る言葉も数多くあります。
英語の誤用例もあり、私にとっては日本人の言語感覚を知るいい機会でもあります。そこで今年の流行語から、私が気になったものを英訳していきます。
「大迫、半端ないって」を英訳すると?
そもそもこの言葉が生まれたのは10年ほど前、2008年に行われた全国高校サッカー選手権大会のこと。歴代最多得点となる10ゴールを記録した大迫勇也選手に対し、敗れた高校の選手が言った「大迫、半端ないって」という一言が発祥だそうです。
その後、大迫がプロのサッカー選手になって活躍するにつれ、このキーワードも広く知れ渡るようになりました。
そして今年、大迫選手の活躍で、ワールドカップの強豪コロンビア戦で勝利したことにより、改めてこの「大迫、半端ないって」という言葉が注目され、流行語となりました。
「半端なく」は「中途半端ではなく、徹底している。ものすごい」という意味の言葉です。辞書で引くと、unspeakablyやenormouslyといった副詞をあてる例が多いのですが、このような言葉の場合、フレーズのみを翻訳するよりも、実際に使う文での機能を考えて英訳するといいでしょう。
では「大迫半端ないって」を英訳するとどうなるでしょう?
私なら次のように訳します。
Ohsako is out of this world.
Ohsako is incredible.
Ohsako can’t be ignored.
Ohsako is a force of nature.
out of this world「この世のものとは思えないくらいすごい」、incredible「信じられない」、not be ignored「無視できない存在だ」、force of nature「計り知れない力を持つ存在」と、いずれも桁外れに「ものすごい」というニュアンスになります。
最近は大谷翔平選手の活躍で大リーグを見る人も増えていますが、大谷選手がホームランを打った後のアナウンスは、まさにこのようなフレーズが並びますので注目してみてください。
super volunteer(スーパーボランティア)をどう英訳する?
そしてこの夏、日本中の話題となったのが、2歳の迷子を山で発見したボランティアの尾畠春夫さんです。大分県から山口県まで無報酬で駆けつけただけでなく、過去にもさまざまなボランティア活動に従事していることから、最近は「スーパーボランティア」の名称で呼ばれています。
しかしこの言葉、残念ながら英語としてはNG…。日本人が(勝手に)作ったカタカナ英語で、super volunteerと言われれば何となく意味はわかりますが、ネイティブがまず使わない表現です。
もし「すごいボランティアの人がいる」を英語にするなら、
He’s a very dedicated volunteer.
彼は非常に献身的なボランティアだ。
He gives his all to his volunteer work.
彼はすべてをボランティア作業に捧げている。
などと言えば、そのすごさが伝わるでしょう。
では、「尾畠さんはスーパーボランティアとして知られている」を英語にするとどうなるでしょう? 私なら次のように表現します。
Obata is known as a “super volunteer”.
Obata has become famous as Japan’s most dedicated volunteer.
Obata is well known for his selfless volunteer work.
「スーパーボランティア」という言葉をそのまま使いたいのであれば、「あえて間違った英語を使っている」ことがわかるよう “super volunteer”と引用符で囲むといいでしょう。
最近は英語の流入が進み、英語のままカタカナで使われる機会も多くなりました。しかし語呂の良さからか、キャッチフレーズなどはまだ「なんちゃって英語(日本人が勝手に作った通じない英語)」が散見されます。英語で表現する際は、要注意ですよ!