Political Correctness(PC)は、日本語では「ポリティカル・コレクトネス – 人種別・性別などの差別廃止の立場での)政治的正当性」という意味になります。差別用語をなくし、容姿・職業・性別・文化・人種などによる社会的な差別・偏見が含まれていない、公正・公平な表現・用語を使うよう推奨するもので、用語が改訂されたり、新語が造られることがあります。PCの利用がどのくらいセンシティブで、どこまで気をつけなくてはいけないかということは、文章の種類や分野によっても異なりかなり難しいところがあります。しかし、英文ライティングに携わる人であれば、ある程度の傾向を抑えておく必要があります。以下、英語便講師Paul de VriesがPCの傾向と考え方について説明します。 |
Political Correctness(ポリティカル・コレクトネス)の変遷
“One small for man. One giant leap for mankind.”は、宇宙飛行士のニール・アームストロングが月面に降り立った時に発した言葉で、「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である。」と日本語へ訳されています。この文では、manがmankindにパラフレーズ(置き換え)されています。manとmankindで韻をふむことと、パラフレーズで多様性を出すことを目的としていますが、ポイントはmanが、mankind の代替用語として使われたということです。
1970年代に女性解放運動が活発になってくると、アームストロングは、この発言が政治的に不適切であるということで激しく批判されました。彼は、このセリフの中では実際”a man”と言い、彼自身を指し示していたと説明しました。そしてa manの”a”が不完全な音声の中で話されたかどうかの検査が行われたのです。彼は本当にa manと言っていたのかもしれません。でも細かい文法は会話の中で失われてしまうこともよくあるわけです。
ニール・アームストロングのポリティカル・コレクトネスの問題は、1つの始まりでした。
chairman, fireman、そしてアームストロングの発したmankindもポリティカル・コレクトネスの問題があるとみなされました。そして、英単語manを含むものすべてに問題あることになったわけです。女性たちは、chairperson, firefighter また humankindといった単語を主張しました。
不満を持っていたのは、女性だけではありません。障がい、ハンディキャップを示す、blindやdeafもよろしくないと思われました。そして、visually impaired, hearing impairedという表現に置き換えられました。black を含む単語もアメリカではタブーになりました。blacklistedはbannedへ、blackboardはchalkboardへと変わりました。
ポリティカル・コレクトネスの社会活動は、行き過ぎた感もあります。面白おかしく作られてしまったと思われる造語もあります。たとえば、housewivesはdomestic engineers、背の低い人がshortの代わりにジョークのようにvertically challengedと呼ばれたりしました。 しかし、面白いことにその中で、単語gentleman’s agreement(紳士協定)は生き残りました。gentlemanのコンセプトは万人が残したいと考えているようです。 |
ビジネスにおけるポリティカル・コレクトネス
実用的な話をすると、まずビジネス文書では性別に関する表現に特に気をつけることです。女性を指すときは、常にMsを使いますMs は、Mrs(既婚女性)、Miss(未婚女性)に置き換わるものです。他の表現でも、性別を示す言葉はPC上、適切でないと考えられます。例えばguests and their wivesではなくguests and their spouses または guests and their partnersが使われるべきです。この考え方はLGBTの受容が増えている今日では特に重要です。
female reporterという表現も、性別を表すので不適切と考えられます。actressも使われていない単語です。actorが、男女両方に使われています。
※ LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それぞれの英語の頭文字からとったセクシャルマイノリティの総称です。 |
ポリティカル・コレクトネスと時代/事象
ライティングにおいては、常にポリティカル・コレクトネスを意識する必要があります。重要なことは、神経質になることではなく、ポリティカル・コレクトネスは言語だけの問題ではなく、様々な時代や事象と関わっているということを考えることです。ニール・アームストロングは、月面に降りた最初の言葉について、最終的にはこう言ったかもしれません。I’m sorry. Times were different then. It seemed like a reasonable thing to say at the time. 「すみませんでした。時代が違っていたのです。その時は妥当なセリフだったのです。」1969年の時点では間違えていなかったと思われます。今の時代においては不適切になってしまうということです。