辞書を引いて英訳した単語が、海外では異なって解釈されていることがよくあります。当シリーズでは英語、日本語両方を熟知し、多数の英語書籍を出版しているデイビッド・セインさんが言葉の意味や用法、また文化背景について解説します。
第5回は「偏差値」です。 |
アメリカに「偏差値」はない
読者の方から「『偏差値』を英語でどう説明すればいいですか?」という問合せをいただいたので、今回はこれを取り上げましょう。教育業界では非常によく耳にする言葉ですが、来日当初はさっぱりわかりませんでした。アメリカには、偏差値のようなシステムが存在しないからです。英語圏では、強いていえばオーストラリアのOP(Overall Position(WIKIPEDIA参照))が似ているかもしれません。
偏差値は一般的に「学力などの試験結果が、平均値からどの程度離れているかを示す数値」とされますが、それをひとことで言い換えられる英語は存在しません。あえて表現すればdeviation score やdeviation value 、またclass curve といったところでしょう。
「偏差」を表すdeviationを用い、ほぼ直訳してdeviation score、またはdeviation value、もしくは教育用語として使われる場合「相対評価」という意味になるcurveを用い、class curveとすればニュアンス的に偏差値に近い表現となります。
通じる英語と通じない英語
しかし! 英訳する際もっとも大切なのは、意味が通じるかどうかです。これらの表現は英語として問題ないものの、ネイティブにはほとんど通じず「で、それはどういう意味?」と聞き返されるのがオチです。
このような場合、まず偏差値という言葉自体の説明が必要になります。わかりやすく大学入試を例に挙げていえば、次のようになります。
Universities in Japan are ranked based on a hensachi score. This tells how far from the statistical mean a typical student admitted to a university scores on a test. A score of 50 is at the mean. It’s generally believed that the best universities have the highest hensachi score.
日本の大学は「偏差値」というスコアに基づいてランク付けされています。 これは試験で入学した一般学生が統計上、平均からどの程度離れているかを表すものです。 スコア50が平均になります。一般的に日本一とされる大学は、偏差値も最高値になると考えられています。
私ならこう訳す!
では、例えば「彼は偏差値の高い大学を卒業した」という場合、どう訳しますか? この場合、いちいち偏差値自体の説明はしていられません。私なら偏差値を意訳し、「英語としてイメージしやすい表現」に変えます。
He graduated from a highly regarded university.
(彼はレベルの高い大学を卒業した)
He went to an elite university.
(彼はエリートの大学に通った)
これなら偏差値という言葉を使わずとも、シンプルに表現できます。翻訳は、言葉の通りに訳すことも大事ですが、何よりも意味を間違えずに伝えることが重要です。
ではもう1つ。次の文を、あなたならどう訳しますか?
「彼女はファッション偏差値が高い」
私なら次のように訳します。
She’s ahead of the pack when it comes to fashion.
(彼女はファッションでは群を抜いている → ものすごくおしゃれだ)
※ ahead of the pack 先頭を走って、一歩抜きん出ている
She’s head and shoulders above the rest when it comes to fashion.
(彼女はファッションでは断然 → ものすごくおしゃれだ)
※ head and shoulders above よりはるかに優れて
「ファッション偏差値が高い」を「ものすごくおしゃれだ」と解釈し、reallyなどでは「偏差値が高い」のニュアンスが出せないため、あえてahead of the packやhead and shoulders aboveといった「ひとひねり入れた表現」を使ってみました。
翻訳する際、直訳にこだわりすぎてもいけません。特に訳語が確定していない場合、まずは意味を正しく伝えることを心がけましょう。