Dearの利用に不安を感じる学習者は多い
英文メールの冒頭挨拶 Dear ~は英語学習教材で一般的に使われています。実際、英語便の戦略的ビジネスEメールコースのテキストや、TOEIC(R) Writingの出版物でも、Dearで始まるメールが数多く掲載されています。ところが、実際のビジネス現場ではネイティブスピーカーがDear を使っているメールをあまり見ないため、利用に不安を感じる方が多くいらっしゃいます。英語便のコースや企業研修の受講生からは、「私はアメリカに5年駐在していましたが、Dear で始まるメールは見たことがありません。本当に使って大丈夫ですか?」、「”Dear~”は”親愛なる~”という意味だと思いますが、海外の知らない相手に使って大丈夫ですか?」といったご質問が日々多数寄せられます。
結論からいうと、Dearは安全な挨拶であり、知らない人に使っても大丈夫です。古い英語ということでもありません。以下、挨拶の例とともにDearの持つニュアンスや利用シーンを見てみましょう。
定型挨拶文は「文字通り」の意味ではない
挨拶の短い表現やフレーズは、どの言語でも「文字通り」の意味で使われていないことがよくあります。例えば日本語の「お疲れ様でした。」は英語では”You must be tired.”という意味ですが、実際には”Hello”, “Good bye”, “Well done”, “Thanks everyone, let’s finish”といった広い意味があると思います。中国語では、“NiChifanlema” という挨拶は文字通りでは「夕食はもう食べた?」という意味です。このため、夕食に招かれたと勘違いする外国人もいますが、実際には単なる「こんばんは」という意味です。オーストラリアでは、留学生が現地の人と交わす”See you later.”という挨拶に混乱することがあります。 オーストラリアでは、”See you later”は「後で会いましょう」ではなく「あなたはいい人なので、また会えるといいですね」という意味合いの単なる挨拶なのです。
さて、”Dear + name”, たとえば Dear Steven, といったメールや手紙の開始の挨拶を見てみましょう。Dear Steven, という挨拶の文字通りの意味は、親愛なる,いとしい Stevenへ、という既に知っている人への親密な気持ちや愛情を伝える言葉です。しかし、メールにおいては1度も会ったことのない人へ丁寧さを伝える単なる挨拶なのです。したがって、” Dear Sir or madam”「ご担当者さまへ」という、男か女かもわからない読み手に対しての定型挨拶にもDearが使われているわけです。
話し言葉で使われるDearの意味
Dear は場面によって話し言葉でも使われることがあります。一般的には年配の人が若い世代に対して、~くん、~ちゃん という感じの呼びかけで使います。この大部分はイギリスまたはイギリス英語の影響を受けている国(カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の話です。アメリカではあまり使われていません。また、若い人が、話し言葉で年上の人に対して”Dear”を使うこともあります。よくある場面は看護師が、年配(特に女性)の患者さんに対して呼びかけるときです。
Dearをメール挨拶で使う時の注意
以上、Dear の利用についてご案内しましたが、まとめますとメールの”Dear Steven,”は “私の愛しいSteven” という意味にはとられません。面識のない相手であっても、丁寧なあいさつとして読み手は受け取ります。
SMSやTwitter、Lineなどの普及で「丁寧な言葉」は徐々に失われています。そして”Dear ~”もその1つです。現在時点では、”Dear ~” はよく使われる書き方ですが、ネイティブスピーカーが使う時は、初めて相手とコンタクトするときか、または相手の年齢が高いときがほとんどです。はじめは、”Dear Steven, または Dear Mr. Coleman,” と書いて相手をよく知るに従い、”Hello Steven,” そして “Steven,” とだんだん親密な書き方へ変化させていくことがよく行われています。メールの締めの挨拶の考え方も同様です。“Yours sincerely,”から“Best Regards,”そして“Regards,”とカジュアルな書き方へ変わっていきます。
アメリカのビジネスでは、初めのコンタクトから”Hello Steven,”と書いてくる人が多いです。しかし、IT業界はカジュアルな傾向、銀行ビジネスは通常フォーマルと、業界により慣習があるので、その点は注意が必要です。
“Dear Steven,”は将来的には使われなくなるか、代替の言い方が現れる可能性があります。しかし、今のところ、初めてのコンタクトで使われるスタンダードな挨拶です。ネイティブスピーカーがあまり使っていないという事実があったとしても、丁寧で最も安全な挨拶といえます。