A社とB社の添削結果が違ってしまう原因
あるアカデミックライティングの講演会で、プレゼンターがこんな話をされていました。「先日、英語の論文を念のためA社とB社の2社に添削依頼したのですが、修正結果が全く異なっていたんですよね。仕方がないのでA社とB社の修正を両方反映して提出したところ、先方からきちんとネイティブチェックをかけるようにと怒られてしまいまして・・・(笑)。」
というこれは笑い話だったのですが、英文添削サイトを運営する立場としては、笑えませんでした。 A社とB社の添削結果が全く異なることは「実際ありえる話」です。しかし、その場合、何らかの問題が起きています。 2社の修正結果を原因がわからないままマージするという行為は、不可解な英文が出来上がる原因であり、やってはならないことです。 以下、実例をもとにご説明します。
まず、手作業で行う添削作業においては、添削者間で、句読点や、スタイルアドバイスの個人差が発生します。しかし、同じ文章を直して「修正結果が全く異なる」ということは通常ありません。英語便では、講師のトレーニングの一環で同じ英文を複数の人間が添削を行うことがありますが、経験を積んだネイティブ添削者であれば出身国や年齢が異なっても修正点は85%以上合致することが確認できています。
ところが、以下のようなケースでは、2人の添削者の「修正結果が全く異なる」可能性があります。簡単な例で説明します。
〇 異なる原因1 – 文章フローが統一されてない
文章フロー(流れ)の統一感がないことは、添削結果に違いが出る大きな要因の1つです。フローのトラブルの原因の多くは、接続詞、形容詞、または副詞の選択が適切ではなく、自動翻訳ソフトを使ったり、他の文献から部分コピーして作成された文章でよく見られます。
以下の例では、原文がパラグラフの文頭で、形容詞(Second)と副詞(Thirdly)を混在して使っているため全体の統一感が損なわれています。A添削者は副詞へ統一、B添削者は形容詞へ統一したため、添削の違いが出ています。
First of all, ~ Second, ~ Thirdly, ~ |
First of all, ~ Second, Secondly, ~ Thirdly, ~ |
First of all, ~ Second, ~ Thirdly, Third, ~ |
フローの問題は、添削者が原文のどの部分を基準とするかで、結果に差異が生じます。全体的に文章の繋ぎが上手くいっていない原文は、文章が長くなればなるほど添削の違いが増えることになります。
〇 異なる原因2 – 文章トーンが統一されていない
文章トーンには、カジュアル、フォーマル、アカデミックなどがあり、目的に応じて使い分ける必要があります。文章トーンが統一されていないということは、日本語でいうと、「~だ」、「~です」、「~でございます」といった丁寧さの違う文章が入り交じり全体として奇異な文章に聞こえているということです。
以下は、若干極端な例ですが、比較的カジュアルな文とフォーマルな文が混在している原文を、A添削者はフォーマルトーンへ統一、B添削者は比較的カジュアルトーンへ統一を行ったため、違いが生じたケースです。
Can you change the second illustration? It would be appreciated if you could send the fix back to me ASAP. |
Can you Is it OK to ask you to change the second illustration? If you can, it would be appreciated if you could send the fix back to me ASAP. |
Can you change the second illustration? It would be appreciated if you could It’s also helpful if you can send the fix back to me ASAP. |
〇 異なる原因3 – 原文の意味がわからない
添削者が原文を理解できないということもあります。「専門分野や業界ワードが難解」ということもありますが、一番多いのは、辞書を使って和→英で書き起こされた文が理解できないというケースです。その場合、前後の文脈から「こうではないか?」という添削者の予測が入るため、修正内容に違いが生じることになります。以下、一例を示します。
Global warming is hung down by the increase in carbon dioxide. | Global warming is hung down made worse by the increase in carbon dioxide. | Global warming is hung down affected by the increase in carbon dioxide. |
添削者への情報提供と・原因調査が解決のキー
以上の例より、修正内容が全く違う2つの添削を混ぜると不可解な英文が出来上がってしまう原因がお分かりいただけたと思います。
修正結果の違いを100%避けることはできないとしても、リスクを減らすことは可能です。それは、添削へ文章を提出するときに、できる限りの文章の背景を一緒に伝えるということです。添削者がその原文の背景(文章の目的、書き手はどんな立場か、読み手は誰か、または提出先はどこか など)を明確に理解していると、文章トーンで迷ったときや、理解できない英文に出会ったときに、より正しい方向で修正を進めていくことが出来ます。例えば、「読み手がはじめてコンタクトする顧客であれば、よりフォーマルな文章トーンを使う」といった判断ができるからです。これは、1つの会社や1人の添削者へ提出するときにも有効です。
そして、はじめにご紹介したような結果が全く異なるということが実際に起きてしまった場合は、添削者のコメントをきちんと読んで、その修正が自分の文章に対して適切であるかどうか見極めることが必要です。例えば、英語便の添削では、修正に”I changed it to sound more formal.” のような講師コメントが記載されます。コメントを読めば、この修正は「文章トーンの修正である」と理解できます。
それでも修正の意味が理解できない、または原文の意味が通じなかった、添削者が意味を読み違えたというときは、日本語を添えて講師・添削者または業者のサポートスタッフまで質問すべきです。添削者は時間が経っても、なぜそれを修正したかという理由を説明できますし、質問や反論があれば観点を変えて再確認し、納得がいくまで対応してくれると思います。
限られた時間で洗練された英文を仕上げることは大変な作業です。しかし、大事な文章の完成度を上げるためにも、ぜひ見直しの時間をとり、納得がいく英文を仕上げるようにしてください。